電子ブック

なかなか興味深い内容です。

電子書籍は、なぜ飛躍できないのか〜立花隆氏講演ITmediaモバイル)

電子書籍はなぜ普及しないのかについて、立花隆氏が講演した内容をまとめたもの。電子書籍というとまだあまりなじみがありませんが、最近では本屋さんでデモ機を見かけるようになってきました。

僕も以前、ある本屋さんで、記事の中でも紹介されているΣBookを見かけたことがあります。少しいじった感想としては「ようやくこの手の機械も使えるレベルになったなぁ・・・」といったところです。本と全く同じとは行かないものの、パソコン画面よりは圧倒的に見やすく、十分実用に耐えるものだと思いました。

しかし、あまり普及していないようです。立花氏は、電子ブックの機能的な問題と共に、価格について「高すぎる」と批判しています。

しかし、「高すぎるなら、安くすればいいだろう」という風に考えないのがこの立花氏の議論の面白いところ。「高くても売れるような、ニッチな需要を掘り起こせばよい」、これが立花氏の主張です。

ご存知の方も多いと思いますが、現在、出版業界はあまり景気がよくありません。特に、専門書が売れないみたいです。僕も一応大学にいますから、専門書を発行する出版社の苦悩はよくわかります。「売れないんですよぉ〜」、そんな話ばかり聞きますからね。

その点、この電子ブックは専門書の世界を救う福音となるかもしれません。専門書を発行する難しさというのは、「あまり需要がないのに、1000部は刷らないとペイしない」ということにあります。本を製版し、印刷して装丁するにはそれなりのコストが掛かります。ある程度部数が出ないとペイしないわけです。でも、専門書なんて売れないんですよね。

ところが。電子出版なら事情は変わってきます。なにしろ、電子出版オンリーで販売するなら、原稿のデータさえ作ってしまえば、実際に刷らなくてもいいんですからね。これは結構アドバンテージになるんじゃないかなぁ。

この場合、かかるコストは原稿料と組版、後は編集のコストだけ。専門書なら、「自分の考えを世に問いたい。原稿料なんかいらん*1!」という人も結構いるでしょうし、組版も著者がTeXかなんかでやってしまえばこれもタダ。あらら、編集コストだけで専門書が出版できちゃった。

研究者の側から見ても、専門書の電子化はメリットが多いです。ざっと列記すると、

絶版になる心配が少ない
データさえ保持してもらえばいつでも買うことが出来ます。
ニッチな分野の本も手に入りやすくなる
これは立花氏も指摘しているのですが、こういう分野の本は数は出ませんが、欲しい人は一冊数万〜数十万円でも買います。よって、そういう分野の本が出版される可能性が高くなるわけです。
場所を取らない
正直、本は場所を取ります。本の収納は研究者共通の悩みです。電子化されればそれが一発で解決!
欲しい本をいつ、どこででも買うことが出来る
これはネット販売されることが条件になるのですが、もし実現すればうれしいですね。本屋さんを巡るのは楽しいんですけれども、時間の制約がある場合、本を探すのに時間を取られるのはちょっと・・・。

など。他にもありますが、結構メリットが多いんですよ。

一方、電子化オンリーで専門書が出版された場合のデメリットも挙げておきましょう。やっぱり、デメリットもあります。

特定の電子ブックでしかアクセスできない場合、論文の参考文献として指定しづらい
参考文献は誰でもアクセスできるものが理想ですから、閲覧に条件がついてしまうのはちょっと問題かも。
内容が知らないうちに改定される可能性がある
紙媒体の本なら引用する際に「第何版」と言う形で指定しておけば、後の版で訂正されてもあまり問題はない*2んですが、これが電子ブックになると、「第何版」という明確な形を取らずに改訂が行われる可能性があります。これだと、論文で引用個所をページ数で指定してもずれてしまって意味をなさない、引用した部分が本文から消滅する、などいろいろ困った問題が発生してしまう可能性があります。知らないうちに改訂が行われ、しかも前の版がこの世から永遠に消滅してしまう、なんてことになってしまうと、研究に支障が出ます。
保存に問題がある
なんだかんだ言っても、紙の本は保存に適した媒体なんです。虫と湿度などに気をつけていれば、何百年でも持ちますからね。図書館で大事に保管しておけば、ずっと研究資料として利用することが出来るわけです。ところが、電子化された書籍の場合、データが飛んだらそれでおしまい。これはちょっと不安です。(紙の本も燃えたらおしまい、って言う点では同じですけどね)。

このように、研究書として電子ブックを利用するのには問題点もいくつかあるわけです。ただ、これらの問題点は、「電子ブックオンリー」と言う形で出版された場合生じる問題なので、同時に紙媒体の本も出版されればこれらの問題は回避されます。ただし、その場合、電子ブックのメリットである「安価で出版できる」というメリットも消滅してしまいますけどね。

なんか、話がそれてきたなぁ。話を戻します。

いずれにせよ、電子ブックはニッチな需要を掘り起こすべきであるという立花氏の主張は至極妥当なものだと思います。こういうのを発想の転換って言うんでしょうね。「現状では価格が高い」から「安くしよう」と言う方向に進むのではなく、「高くても売れる方法は何か?」と考える。こういう柔軟な発想は僕も見習わなければ。

いずれにせよ、僕も、電子ブックがそうした方向に進んでくれることを願っています。また、そうした「ニッチなんだけど、きわめて価値のある」書籍が今までよりも身近になれば、文化の発展にも貢献すると思います。

電子ブックの普及はまだまだ難しいみたいですけども(そもそも僕も持ってないし)、大きな可能性があるのも事実だと思います。是非がんばって普及に努めて欲しいですね。

*1:プロの作家では絶対にありえないことなのですが、学者の世界ではこういう事がありえます。そもそも、現状でも原稿買取だったり、印税が現物支給(書いた本が送られてくるわけですよ・・・。)なんてこともあるわけです。ですから「タダでも書く!」、って言う人は割といると思いますよ。

*2:その版の文献を見ればいいわけですから