パチンコ産業の規模30兆円について考えてみる

庶民の娯楽、パチンコ。市場規模は現在では30兆円に達すると言われています。この不況の最中、30兆もの市場規模があるというのは凄いですね。ここまでくると、今やパチンコ産業は日本経済においてきわめて重要な地位を占めていると言えるでしょう。パチンコって凄いですね。



な〜んて話を時々聞きますが。

ちょっと冷静になって考えてみましょう。現在、日本のGDPは約500兆円です。すると、仮にパチンコ産業の売上が30兆円だとするならば(つまり、パチンコ産業が新たに生み出した付加価値が30兆円であるとするならば)、日本のGDPの約6%がパチンコからもたらされることになります。

ちょっと信じられない数字です。日本の全産業が生産した付加価値のうち、6%をパチンコが生み出している?全産業って、農業、自動車、機械、科学などを含む工業、喫茶店やファーストフード、映画や音楽CDビデオレンタルディズニーランドUSJ宝塚なんばグランド花月ヨン様あぁ面倒くさいとにかくその他もろもろのサービス産業等全て含めてですよ!

はっきり言って、有り得ないですよね。経済に詳しい方なら、この数字が如何に有り得ないものであるか理解していただけると思います。要するに、パチンコ産業が30兆円もの付加価値を生み出しているわけがないんです。じゃ、この30兆円っていう数字はいったい何なのか。

その答えは、この数字の根拠となる原典をあたることで明らかになっています。このパチンコ産業30兆円と言う数字の原典は、『レジャー白書』。ここに、パチンコの売上が掲載されています。

残念ながら、僕は原典を見たことがないのですが、パチンコに関するデータをまとめたサイトを見つけました。勝手にリンクします(リンク禁止だったらごめんなさい)。

パチンコ産業の現況

ここに、パチンコ産業の売上が出ています。確かに、売上は30兆円ほどあるようです。しかし。表の項目をよく見てください。「売上 貸玉料」って書かれていますね。実は、これがパチンコ産業30兆円の種明かしなのです。

貸玉料と言う言葉はあまりなじみのない方も多いと思いますが、これはお客さんがパチンコをするとき、玉を購入するときに払うお金です。今は一発4円、100円で25発玉を打つことが出来ます。多くの人が「パチンコをするために玉を買っている」というように認識しているかもしれませんが、実際にはパチンコ玉って、お客がお店から一時的に借りているわけです。ゲーム終了時には、お店に返却するわけですからね(カウンターに流すか、全部パチンコ台に飲まれるかの違いはありますが)。だから貸玉料って言うんです。

さて、ぶっちゃけて言ってしまえば、パチンコはギャンブルです。いろいろややこしい手順を踏んでいますが、結局のところ出玉は換金することが出来ます。これは、まぁパチンコをしない方も知っていることだと思います。

さて、換金できると言うことは、パチンコ店側は常にお客に払い戻しをするための現金をキープしておかなければならないことになります。つまり、パチンコの玉を貸して得たお金は全てパチンコ店の売上になるのではなく、その一部はお客への払い戻しのためにキープしておかなければならないのです。

で、実際にどれくらいのお金がお客に払い戻されているのか。もちろん、正確な数字はわかりませんが、大体売上の8割はお客へ払い戻されていると言われています。お店の取り分は2割ですね(この取り分を寺銭*1と言います)。「そんなわけない。もっと儲けているはずだ」と仰る方もいらっしゃるかと思いますが、そんなもんみたいですよ。

つまり、パチンコの売上のうち8割はお客に還元され、パチンコ店の売上にはならないのです。

ここで、先ほどの市場規模の話に戻りましょう。これまで述べてきたように、パチンコ店は極めて特殊な経営形態の業種です。確かに、売上(貸玉料)は30兆円かもしれません。しかし、これをそのままパチンコ産業の市場規模だと考えるのは、経済学的に問題があると言えます。

他の業種と比較して見ましょう。例えば、自動車産業。最終消費財の価値=付加価値ですから、自動車ディーラーで販売された自動車の売上を合計すれば、自動車産業によって付け加えられた付加価値の大きさを知ることが出来ます。自動車の価格には、原材料の加工、部品、自動車組み立て、輸送、販売など、その自動車を生み出すために付け加えられた全ての付加価値が含まれています。ですから、各ディーラーの総売上が自動車産業の市場規模であると考えていいわけです。

しかし、パチンコはどうでしょうか。パチンコの売上のうち、8割はお客に払い戻されることになります。お店の取り分は2割ですね。この2割については、間違いなくこのお店の売上です。さて、お客に払い戻された8割についてどう考えるべきか。ここが焦点となります。

結論から言うと、この8割部分は経済学的に「全く無意味な」部分となります。いろいろ人の手を介しているため直感的にはわかりづらいかもしれませんが、この8割部分、結局のところ、あるお客さんのポケットから別のお客さんのポケットへ移動しただけなんですね。お金が移動しただけで何も生産されていないですから、経済学的には全く無意味です。当然、この8割の部分は何ら付加価値を生み出していませんから、GDPにも含まれないことになります。

結局、パチンコの市場規模を考えるならば、お店が寺銭として取っている分を調べるべきなんです。売上の数字の大きさを誇ってもあまり意味がありません。まして、パチンコの売上と他の産業の売上を比較するなんてもってのほかです。全く意味がありません。意味がないんですよわかっているんですか

仮に寺銭が2割だとすると、パチンコ産業の規模は6兆円程度になります。これならまあ納得できる数字ですね。これでも結構大きい数字ですけどね。でも、この6兆円にはパチンコ機器メーカーが生み出した付加価値とかも含まれていますからね。こんなところですかね。

まあ、寺銭の割合を公表するのはなかなか難しいでしょう(そこがパチンコ商売のキモですし)。ですから、売上を公表しているのだと思うのですが、この数字をそのままパチンコ産業の規模だと考えるのはちょっと問題だと思いますね。

*1:パチンコに限らず、ギャンブルをするときには胴元がどれくらいの取り分を撮っていくのか知っておくことは重要だと思います。公営ギャンブルは2割5分、パチンコは1割〜3割くらいと言われています。ラスベガスのルーレットですと、0と00(緑色の数字)が親の取り分となっていて、今計算したら大体5%くらい(間違ってるかも)。ちなみに、日本で最悪のギャンブルは「宝くじ」です。あれは胴元が5割持っていきます。ボッタクリです。何がドリームだよば〜か、って僕なんか思うんですけど。